プロが見たこの映画
ファッションのプロが語る「カップ焼きそばとカスタムロボ」/『佐々木、イン、マイマイン』
深夜2時に食べる、背徳感とマヨネーズにまみれたカップ焼きそばが好きだ。
食べ物に異常に執着しているところがあるので、映画に登場する美味しそうな食べ物ばかり記憶に残っている。『HOT SUMMER NIGHTS』で積み上がったワッフルの塔にビチャビチャとシロップをかけるシーンだとか『彼女』で拉麺と炒飯を食べているシーンだとか。
『佐々木、イン、マイマイン』はカップ焼きそばだ。佐々木は言う、「カップ焼きそば、くそうめえよ…」と。
2年前の4月に新宿武蔵野館でフラッと観ることを決めた『佐々木、イン、マイマイン』が私の大好きな映画になったのは冒頭述べたカップ焼きそばともう1つ、心を鷲掴みにされたポイントがある。それは劇中で佐々木と佐々木の父親がNintendo64のカスタムロボをしていたことだった。
ここからは実際にカスタムロボをやったことがある人にしか残念ながら伝わらないのだが、カスタムロボとはその名の通り、カスタムしたロボで対戦するゲームだ。そしてカスタムロボはサイコロのように四角くなって筒から吹っ飛ばされることでゲームがスタートする。大事なのはここからで、フィールドに四角形に縮こまって吹っ飛ばされたカスタムロボをいち早く立ち上がらせるため、そう、あの64特有のクタクタで頼りない十字キーをガチャガチャとしばき倒すのだ。64のコントローラーの十字キーが異様にクタクタな子はカスタムロボを持っているんだなと察するくらいには、あの頃の私たちは十字キーをガチャガチャしていた。
それをとても忠実に、佐々木と佐々木の父親が十字キーをガチャガチャする姿を観て、カップ焼きそばを食べる佐々木を観て、ああ、この映画は私の映画だ…と静かに心を震わせたことを私は一生忘れないだろう。
そして、そういう感情に出会えるから映画を好きになったんだと、思い出させてくれたのも『佐々木、イン、マイマイン』なのだ。
今のところカップ焼きそばとカスタムロボの話しか出来ていなくて女子特有のオチのない話をダラダラとするみたいで申し訳ないのですが、主人公である佐々木は佐々木コールが教室に響き渡ると全裸になるという、いわゆるお調子者だ。佐々木とは不思議で、よく考えれば佐々木みたいな同級生はきっといなかったと思うけれど、でもなぜだか私の記憶の中にも佐々木がいたような気がしていて、多分この映画を観た多くの人は記憶の中に、いるはずのない佐々木を思い出すのではないかと思う。なんだか不思議で、64ユーザーにはたまらない作品だ。
今日はいるはずのない記憶の中の佐々木を思い出しながら、深夜2時にカップ焼きそばをすすろうと思う。
映画ファッションマニア つみき
『佐々木、イン、マイマイン』(2020)
監督:内山拓也
出演:藤原季節、細川岳、萩原みのり ほか
(C)映画「佐々木、イン、マイマイン」
『彼女』(2021)
監督:廣木隆一
出演:水原希子、さとうほなみ、新納慎也、田中俊介 ほか
(C)Netflix
『HOT SUMMER NIGHTS』(2017)
監督:イライジャ・バイナム
出演:ティモシー・シャラメ、マイカ・モンロー、アレックス・ロー ほか
(C)2017 IMPERATIVE DISTRIBUTION, LLC. All rights reserved.
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