プロが見たこの映画
音のプロが語る「Z世代が気づく”泣ける”の先にある”学び”の大切さ」
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
Z世代にこの映画がヒットしていることは一目瞭然だった。というのも、SNSで繋がっている知人がこぞって、この映画を見て「泣いた」と投稿していたからだ。さらに、普段ほとんど映画を見ないという友人ですら鑑賞したというのだから、本作にはZ世代の心に響く魅力があるのは間違いない。
ちなみに筆者は、正直この手の作品が苦手だ。戦争がもたらした出来事を感動のための道具みたいに扱っていて、戦争を軽く描いているような気がしてならない。予告を見ても、いわゆるお涙頂戴系の映画としか思えず、鑑賞意欲がそそられない。そんなマイナスな感情を抱きながら、本作を鑑賞した。しかし、映画を見て驚いた。本作は、ただ”泣ける映画”ではなかった。むしろ恋愛作品として押すのがもったいないと思うほど、戦争に対して真摯に向き合って作られた映画であった。
本作最大の魅力は、令和の女子高生が戦時下である1945年にタイムスリップすることだ。ちなみに鑑賞する前の筆者は、この設定があまりに非現実的であり鑑賞意欲が下がった原因の一つでもあった。しかし本作を見てみると、現代の人が戦時下にタイムスリップしたことに大きな意味があり、ほかの戦争を題材にした作品とは一味違うものになっている。
おそらく若者の多くがタイムスリップした主人公・百合に共感するだろう。なぜなら戦後を生きる我々は、戦争はしてはならないことを知っているからだ。だから百合は、当時の人に訴え続ける。そして、百合が恋に落ちた特攻隊員の彰にも訴える。「特攻なんて、体当たりで攻撃なんて、ただの無駄死にだよ。みんなが命を捨てて敵艦に突撃しても、結局敗けるんだよ。」戦争がどのような結末を迎えたかを知っている百合は必死で伝える。けれど、彰を含めた当時の人々にその想いは届かない。いや、届いていたかもしれないが彼らが信念を曲げることはなかった。
戦争を体験していない筆者には、当時の人たちの想いや葛藤に触れることができない。だから、戦争について考えてもどこかリアリティに欠けてしまうこともあった。しかし、百合はZ世代が抱く戦争への考えを当時の人にぶつける。そして、彼らの想いを知る。そしてまた考えて悩んで訴えて受け入れて、百合は百合なりに戦争と向き合い続ける。そんな百合を通して、筆者は”自分ゴト”として戦争について考えさせられたように思う。
かつて、筆者が平和学習で広島に訪れた際に戦争を経験した方から言われたことがある。
「君たちの世代が、戦争体験者の生の声を聞ける最後の世代だよ」と。
今も世界で戦争が起きているが、平和が保たれている日本ではなかなか戦争を自分ゴトとして考えることが難しい。ましてや、戦後から何十年も経ってから生まれたZ世代やさらに下の世代には、戦争がもたらした悲劇を教科書に書かれた文字だけで想像することは難しい。そんな我々に戦争がもたらした悲しみや苦しみ、そして今ある日常が当たり前ではなく幸せであることをこの映画は教えてくれた。
絶対音感をもつ Nami(Z世代)
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(C)2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
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