プロが見たこの映画
『アリスとテレスのまぼろし工場』宣伝日記 【前編】
作品との出会い
最初に脚本を読んだのは今から2年前の2021年8月。どんな話なのか全くわからず、わかっているのは岡田麿里監督が自ら書いたオリジナルのアニメということだけだった。
僕と岡田麿里作品との出会いは、今から10年前、『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』だった。アニメをほとんど見ない僕に宣伝の相談をいただいたのだ。「とにかく作品を見て欲しい」と、TVシリーズのDVDをお借りした。なんで僕に?という気持ちでDVDを見始めると、すでに0時近くだったにもかかわらず、朝まで一気に見てしまった。面白いから見たというよりも、心を強く捕まれ、気持ちが抑えられなかったのだ。それが岡田麿里作品との最初の出会いだった。
何がそんなに僕を掻き立てたのだろうか?その可愛らしいキャラクターたちのルックから想像できないリアルな設定が魅力だった。物語の中心にあるのは、事故で亡くなった友達と、残された仲間たちのトラウマ。こんな作品、今まであっただろうか?なのに、暗さは全くなく、不思議と懐かしい気持ちを掻き立てるのだ。「いろんなことあるけど、大丈夫だよ」と優しく語りかけてくれている気がした。物語の軸がキャラクターではなく、中心は感情にある。それが岡田麿里作品の魅力なんだなと思った。
「まぼろしの世界」にどっぷりハマり、展開は胸ズキュン。
なので、「脚本:岡田麿里」、それだけでテンションがあがる。早速読み始めて、冒頭から引き込まれ、読み終わって心の震えが止まらなかった。「何も変えてはいけない」という設定が、コロナ禍のリアルな世界とリンクし、先の見えない世界を生きる僕たちに、力をくれる作品になると確信した。そして、今この時代にこの作品が生まれてくるその運命をしっかりと受け止めた。
でも、いつもの岡田作品とは何かが違うなという気持ちがしていた。それが何なのか?はその時はわからなかった。
読み終わった後には、 売り方を考えるという現実が待っている。売り方を考える時はロジカルに物語を分解し、どのように伝えたら面白いのか?興味を持ってもらえるのか?を徹底的に考える。でも、なかなか良い方法が見つからなかった。起承転結に沿って物語の展開を説明しようとすると、全く面白く聞こえないのだ。『まぼろし工場』の面白さは映像として見えている展開の裏側にあるからだ。表側からは見えない繊細な心の変化、それが物語の中心なのだ。この映画は本当に売るのが難しい。「いつもと何か違うな」と思ったのはこの部分だったのかもしれない。
『あの花』も『ここさけ』(『心が叫びたがってるんだ。』)も、宣伝的にもキャッチーな衝撃的な事件から始まり、その事件により閉じ込められた深い思いが動き出す様や、時間の経過により変わってしまった大切なものを取り戻す様を描いている。そして、その奥深くに普遍的なメッセージが込まれているのだが、『まぼろし工場』は「不変的世界」の中に閉じ込められた心が主人公で、さらにそれに抵抗するのではなく、何も変化させないように静かに生きている人々が主人公なのだ。だから前半は目立った事件が起こらない。
でもその状況の中、淡々と心情は変化していくのだ。そこに、得体の知れない言葉のしゃべれない狼少女が現れる。これは誰?なぜ1人だけ成長するのか?これは唯一無二の本作ならではの「異物感」。これをうまくアピールしていこうと考えるのだが、ここはここで物語の核となりすぎていて多くを語れないのだ。
となると、語れる部分で、唯一大きく動きがあるポイントが「恋」だ。押し込めていた感情に火がつくと、それは止められない力となり暴走し始める。この恋する衝動が世界の均衡を崩すという部分を宣伝で展開することにした。
これは、胸キュンなんてもんじゃない、胸ズキュンだ。
後編に続く・・・
『アリスとテレスのまぼろし工場』宣伝担当
『アリスとテレスのまぼろし工場』
大ヒット上映中
公式HP:https://maboroshi.movie︎
脚本・監督:岡田麿里
声の出演:榎木淳弥、上田麗奈、久野美咲、林遣都、瀬戸康史 他
制作:MAPPA
配給:ワーナー•ブラザース映画、MAPPA
突然起こった製鉄所の爆発事故により全ての出口を失い、時まで止まってしまった町で暮らす中学三年生の正宗。いつか元に戻れるように、住人たちは変化を禁じられ鬱屈した日々を過ごす中、謎めいた同級生の睦実に導かれ、製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れる。そこにいたのは喋ることのできない、野生の狼のような少女―。二人の少女と正宗との出会いが世界の均衡を崩していき、日常に飽きた少年少女たちの、止められない<恋する衝動>が世界を壊し始める―。
©新見伏製鐵保存会
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