プロが見たこの映画

主役交代の予感!?映画祭ウォッチャーがゴールデン・グローブ賞の結果から読み解くアカデミー賞戦線の行方

2023-01-12更新

先日、アカデミー賞を占う前哨戦の中でも特に重要な賞の一つである第80回ゴールデン・グローブ賞の結果が発表された。ここ数年は映画以外の面で話題になることが多かったゴールデン・グローブ賞、今回の結果に対しても女性監督がノミネートされていない、とか言われているが、それでもアカデミー賞を占う上で重要な賞である事実は変わらない。

そこでこの記事では今回のゴールデン・グローブ賞の受賞結果からこの先のアカデミー賞レースを読み解いていきたいと思う。

 

『イニシェリン島の精霊』が最多3部門受賞

ゴールデン・グローブ賞の結果だが、まずは作品毎にまとめると以下のようになる。
※長編アニメーション映画賞、外国語映画賞は省略

 

『イニシェリン島の精霊』3部門受賞
作品賞(ミュージカル・コメディ部門)、主演男優賞コリン・ファレル(ミュージカル・コメディ部門)、脚本賞

『フェイブルマンズ』2部門受賞
作品賞ドラマ部門、監督賞スティーブン・スピルバーグ

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』2部門受賞
主演女優賞ミシェル・ヨー(ミュージカル・コメディ部門)、助演男優賞キー・ホイ・クァン

『エルヴィス』1部門受賞
主演男優賞オースティン・バトラー(ドラマ部門)

『TÁR』1部門受賞
主演女優賞ケイト・ブランシェット(ドラマ部門)

『ブラックパンサー WF』1部門受賞
助演女優賞アンジェラ・バセット

『バビロン』1部門受賞
作曲賞

『RRR』1部門受賞
歌曲賞

 

これまでに発表された批評家賞でも受賞を重ねていた『イニシェリン島の精霊』と『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を始め、順当に有力作品・映画人が受賞した印象だ。サプライズとしてはブレンダン・フレイザーに競り勝って受賞したオースティン・バトラーと、助演女優賞を受賞したアンジェラ・バセットか。特にアンジェラ・バセットは、前評判は高かったものの、前哨戦では『イニシェリン島の精霊』のケリー・コンドンが受賞の山を築いていたので大きなサプライズだったと言える。

DCコミック作品と違い、まだ一人も演技部門に候補者を送り込んだことがないMCUだが、遂に初の候補者が出るのか、大きな注目ポイントである。前々回のアカデミー賞では追悼コーナーに登場し、チャドウィック・ボウズマンの名前を読み上げた彼女が、今度は候補者としてオスカーに参戦するとなったら、非常にドラマティックな展開である。

 

賞レースの鍵を握るのは「映画エブエブ」

順当な結果と言えば順当と言えるのだが、ここで注目したいのは作品賞ミュージカル・コメディ部門と監督賞だ。こちらの記事(“#マルチバース”が #オスカー を制するのか!?映画祭ウォッチャーが賞レース前半戦を振り返る!)でも書かせてもらったが、前哨戦で多くの賞を受賞していたのが『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』と『イニシェリン島の精霊』だ。

この2作品は今回、両方とも作品賞ミュージカル・コメディ部門と監督賞に候補入りを果たし、作品賞は『イニシェリン島の精霊』が、監督賞は『フェイブルマンズ』のスピルバーグが受賞を果たした。

ゴールデン・グローブ賞の結果が発表されるまでの、今年の主役は間違いなく『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』だったが、その作品がアカデミー賞を占う上で特に重要な賞で、作品賞と監督賞を逃したのだ。そしてその2つを受賞したのが『イニシェリン島の精霊』と『フェイブルマンズ』というのがポイントで、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は評価も高く大ヒットを記録しているが、これまでのアカデミー賞の傾向を考えても“賞向きの映画”では無い(もちろん過去には『ロード・オブ・ザ・リング』がファンタジー映画でありながら作品賞を受賞した歴史があるが)。それに引き換え『イニシェリン島の精霊』と『フェイブルマンズ』は“賞受けの良い作品“だ。前者は孤独な男性の物語で、後者は稀代の映画監督の自伝的作品。もちろん映画は純粋な面白さが大切であることは間違いないが、アカデミー賞という賞には、アカデミー賞受けの良いジャンルや映画人がいることも、また事実なのである。

 

 

もちろんゴールデン・グローブ賞の結果だけでは、まだどうなるかをはっきり予想することは難しい。しかし、少なくとも賞レースの主役が『イニシェリン島の精霊』と『フェイブルマンズ』に予感はする。特に『イニシェリン島の精霊』は今回のゴールデン・グローブ賞では最多ノミネートだったし、最多受賞だ。

さて、この先にはブロードキャスト映画批評家協会賞、そして各組合賞が発表される。賞レースのこの先の行方がどうなるのか、ますます楽しみなところだ。

 

ヒカセン兼業ライター 大西D

 

■大西Dの記事をもっと読む
世界の名作を一足先に!今年のTIFFで観て欲しい作品を勝手にお勧め!【第35回東京国際映画祭】
『バルド、偽りの記録と一握りの真実』あなたのおうちはどこ?イニャリトゥがメキシコに帰ってきた!
『仮面ライダーBLACK SUN』”生きている限り戦い続けろ”という強烈なメッセージ
【プロが見たこの映画】オンライン番組ディレクターが語る「全てにおいて「庵野秀明」が反映された『シン・ウルトラマン』」

 

【ほかのプロの記事も読む】
宣伝のプロが語る「信長は独裁者か?」
ファッションのプロが語る「会長の色褪せた帽子に思いを馳せる」
【新年の抱負】KIQ REPORT編集長が2023年を迎えて思うこと。
オンライン番組ディレクターが語る「マキマがお前を嘲笑う…!? 映画オマージュで観る映画」

不明なエラーが発生しました

映画ファンってどんな人? ~ライフスタイルで映画ファンを7分析~
閉じる

ログイン

アカウントをお持ちでない方は新規登録

パスワードを忘れた方はこちら

閉じる