プロが見たこの映画
ファッションのプロが語る「“エモい”とはこの監督から誕生した気がする」
前回、アパレル業界の映画LOVERから名前がよく挙がる監督として、ジム・ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』を紹介させていただいた。今回はもう1人、ウォン・カーウァイ監督について語らせていただく。
ウォン・カーウァイ監督の作品を今っぽい言葉で表すと、とにかく“エモい”に尽きる。
エモいとはご存知の通りEmotionalが由来だが、英語の本来の意味とは少し違い、どこか懐かしく切ないような空気感やノスタルジックな雰囲気を表現する時に使う方が多いと思う。ウォン・カーウァイの代表作は90年代に作られたものが多く、また香港の監督なので、香港のネオン街であったり、雑多な市場の風景などが現代でいう“エモい”にピッタリとハマるのだ。というより、ウォン・カーウァイの映画のような空気を表現するために作られた言葉なのではないかとさえ思ってしまう。
私の初見作は一番の代表作でもありカネコアヤノの曲のタイトルにも使われている『恋する惑星』(1995年公開)で、劇中に恋をした警察官の家に不法侵入をするフェイという女性が登場する。文章で書くとただの危険人物なのだが、服装や髪型がたまらなく可愛いのだ。男の子ばりの短髪になんでもないようなTシャツと部屋着みたいな気だるいボトムを合わせ、彼女のスタイルも相まった唯一無二のバランスに心を鷲掴みにされた方も多いのでは。
UNDERCOVER2019年秋冬のコレクションでは、キューブリックの『時計じかけのオレンジ』をテーマにしていたが、はやくどこかのデザイナーが『恋する惑星』をテーマにコレクションを開催してくれないかと願うばかりだ。
『恋する惑星』
それからやっぱり外せないのが『欲望の翼』(1992年公開)に登場するレスリー・チャン。そのほとんどが開襟シャツやポロシャツで、やたら襟付きにこだわっているなあ、とどうでもいい感想を抱きつつも、スタイリングのカッコ良さと渋さに圧倒されるだろう。ただ、もしかするとレスリー・チャンの顔ありきの可能性もあるのだが。
だとしても、私がもし男に生まれていたらきっとレスリー・チャンに憧れて夏は毎日開襟シャツを着ただろうし、髪の毛も七三分けにしてジェルで固めていただろう。そして、そのような夏を過ごした方がきっとどこかに必ずいるとも思う。
『欲望の翼』
香港は暑い季節が長くて湿気も多く、1年を通してジメッとした気候らしい。というのもあってウォン・カーウァイの作品の登場人物はほとんど薄着。まさにこれから夏を迎える私たちに真似したくなるようなスタイリングを見せてくれるだろう。
しかもなんともベストなタイミングで、8月19日から『恋する惑星』を含むウォン・カーウァイ監督5作品の4Kレストア版が劇場公開される。是非この機会に最高にエモい映画体験をしていただければと思う。
映画ファッションマニア つみき
ウォン・カーウァイ4K
8月19日(金)より全国順次公開
上映作品:『恋する惑星 4K』 『天使の涙 4K』 『ブエノスアイレス 4K』 『花様年華 4K』 『2046 4K』
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