プロが見たこの映画
WEBパブリシストが語る「名作には“魅力的な悪役”が欠かせない!」
悪役が魅力的であればあるほど、作品は面白い。
例えば『スター・ウォーズ』シリーズのダース・ベイダーだ。鋼鉄のマスクの下にある素顔を人々は想像し、非道に思えたキャラクターの内面を目撃し、息子を想う気持ちに涙する。人間味あふれるダース・ベイダーを誰もが愛した。或いは『ダークナイト』のジョーカーはどうだろうか。どこまで行っても掴みどころがない狂気。人間の本質を見抜き、まるで遊んでいるかのように相手を絶望に落とす。他にも『羊たちの沈黙』のレクター博士、『ターミネーター2』のT-1000など名作には魅力的な“悪役”が付き物だ。
本題に入ろう。『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』が大ヒット公開中だ。公開館数34館にも拘らず公開から3日間での興収は5200万円を超えるなど、この作品がいかに多くの人に愛されているかがよく分かる。筆者はこの手のアニメは基本的に見ることがなく、アニメの存在も昨年末まで全く知らなかったが、テレビアニメの全13話を見ると、まぁ面白い。軽快な会話劇や、巧妙に計算された物語も面白いのだが、何よりもキャラクターたちが良い。
中でも魅力的なのは犯罪を犯す“悪人”キャラクターたちだ。常にラップ調で話すヤノ、その舎弟の関口なんかが多くのファンに人気らしいのだが、筆者が特に魅力に感じたのはゲラダヒヒのチンピラ「ドブ」だ。喧嘩が強く、何かと暴力的ではあるが、それと同時に“弱さ”もあったり、どこか優しい感じもあったりと、中々に憎めないキャラクターである。
ドブは確かに悪人ではあるが極悪非道かと言われると、そうではない。
主人公小戸川の想い人でヒロインの白川さんの借金の件や、小戸川の友人・柿花のトラブルに際しても、ドブは小戸川の頼みごとを無下にすることなく、助けたりするなど、仲間と認めた相手にはある程度手を差し伸べる部分もある。悪いことはするが、人としての筋はしっかり通している。自分を追い詰めようとした人間を前にしても、なぜそういった行動を取ったのか内省を促し、条件付きではあるが許すなど優しい一面も持っている。でも自分を捕まえようとする者が増えることに恐れを感じていて、ボスに対しても隠し事をしてしまう。こんな人間らしい弱い一面があるのも、ドブの魅力だ。そういった意味ではこの作品の中で最も人間味のあるキャラクターかもしれない。
あと筆者的には、やはりドブは声が良い。これはドブを演じた浜田賢二の素晴らしい演技の賜物だ。
出演声優と言う意味では花江夏樹や飯田里穂、三森すずこ、ミキ、ダイアンなどが注目されがちな本作だが、それを支えているのは浜田氏や、柿花を演じた山口勝平のようなベテラン声優の見事な演技だ。ドブを演じた浜田氏の重低音でお腹に響いてくるような、でもどこか優しさもあるドブの声は、非常に聞き心地が良く、なおかつドブと言うキャラクターの人間性に見事な説得力を与えている。テレビアニメはもちろん、洋画の吹き替えなども数多く担当されている浜田氏の素晴らしい“ドブっぷり”を是非堪能して欲しい。
『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』は主人公・小戸川が関わった事件について、関係する17人のキャラクターが証言する、アニメ版を再構築しつつも、全く新しい視点で「オッドタクシー」を描いている。物語に大きく関わるドブも、重要な役割を担っている。予告編では「真実はそれぞれの心の中にある。1つじゃない」と意味深な言葉を発していたが、一体どんな意味が隠されているのか。魅力的な悪役“ドブ”を是非とも映画館で堪能してもらいたい。
WEBパブリシスト 大西D
『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』
大ヒット公開中
監督:木下麦
出演:花江夏樹、飯田里穂、木村良平ほか
配給:アスミック・エース
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