業界人インタビュー
【ENDROLL】「映画は、人を社会に繋ぎ止める。」宣伝プロデューサー青木基晃さん ~後編~
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!
前回に引き続き、株式会社ウフルで映画の宣伝プロデューサーを務める青木基晃さんにインタビュー!
後編では、映画宣伝プロデュースだけでなく、「SAVE the Cinema」「ミニシアタークラブ」(一定の役割を終えて終了
映画館が映画監督や観客を生む
KIQ: 現在は、ミニシアターを守る活動もされていますが、それはやはりコロナがきっかけだったのでしょうか。
青木: 『風の電話』という映画で諏訪敦彦監督とご一緒したんですが、2020年の頭にベルリン映画祭から日本に帰るときにコロナになって、あらゆる映画館が閉鎖していった。特にミニシアターはこのままだと収入がなく、厳しい状況になりましたよね。諏訪監督は僕のメンターのような存在の方なんですが、以前から、フランスでは映画は芸術として法律で定められていて、CNCという団体が映画館や映画文化を保護するシステムがあり、映画を育てる土壌があると聞いていました。コロナ禍でもフランスではすぐに支援の補助金が出るけど、日本にはそういうセーフティネットがない。セーフティネットが業界になければ、作り手も映画館も守れないので、このままではまずいということで諏訪監督や是枝裕和監督たちが監督有志の会を立ち上げ、記者会見を行うということで、そのお手伝いとしてメディア担当の窓口になったのがきっかけでした。それが「action4cinema」になりました。
KIQ: コロナ禍の緊急支援を通してどういったことを感じられましたか。
青木: 要望書を色々な省庁に持っていくと、「これは業界全体の意見ですか?」と言われることが多くて、業界としての統一が全然ないことを痛感しました。邦画製作業界は7割がフリーランスと言われていて、要するに、団体もまとまってなければ、フリーの人ばかりで統一性が全くないんですよね。あと、なぜミニシアターを守らなければいけないのかということを言語化する必要性もすごく感じました。映画館が大変だと言っても、エンターテインメントや芸術の前にもっと優先されるべきことがあると言われたり、「きみたちが好きでやってることを守りたいと言ってるだけじゃないか」と思われてしまう。そこに対して、歴史的にちゃんと言葉を持って動いてこなかったことを感じました。
KIQ: いまはどのようにミニシアター支援の必要性を言語化していますか。
青木: 世界中を見てもこれだけミニシアターが残ってる国って珍しいんですよね。多様な映画が見れる映画館があるから、そこで映画を見て作家が生まれていく。新海誠監督も是枝監督も濱口監督も、多くの監督が最初はミニシアターで作品が上映される。いきなりシネコンから映画監督が生まれるわけじゃないですよね。
KIQ: 確かにそうですね。
青木: 日本の漫画アニメがこれだけ世界を席巻してる理由のひとつは、『ジャンプ』とか『りぼん』とか、毎週毎月、漫画を読めるシステムがあって、それをお小遣いで読んだ子どもが自分も描いてみようと思える土壌、漫画の読み方や描き方をインプットされる土壌があったからだと思うんです。大谷翔平も日本の野球の土壌がなければ生まれなかった。そう考えると、その土壌のひとつがミニシアターなのではないか。そこは収益はすぐには生まないかもしれないけど、将来的な高収益を生む。配信での視聴環境もありますが、映画館で体験するインパクトが大切かと。政府は、上映会やイベントを組んだら補助はしてくれたけど、そういう才能の種みたいなものや映画館に直接補助するのはなかなか難しいんだなと痛感しました。
KIQ: そんな中で、今後のミニシアターの役割をどう感じられていますか。
青木: 配信で映画を見れたり、SNSを漠然と見てれば時間が過ぎてしまう時代なので、もはや何か面白いものを見に行く場所という考えだけでは映画館は生き残れない気がします。配信ではどうしても雑音が多くなりますが、映画館では、暗闇でスクリーンを見て、自分と対話することができる。みんな日常生活で常にスマホの通知が鳴ったり、ノイズに晒されてるので、これからの時代、他のものに惑わされずに自分と対峙する場所としての役割がより必要になってくるんじゃないかと思います。
KIQ: なるほど。
青木: あともうひとつは、長野県の上田映劇という映画館では、映画館の事務所で子どもたちが宿題をやったり、本を読んだりしてて驚きました。実は学校に行きづらい子がそこに行くと出席扱いになるっていうシステムを作ってるんです。映画館って誰が来てもいいし、先生に指されたりすることもない。暗闇に入って面白かったら見てればいいし、駄目だなと思ったら出ればいいっていう非常に優しい場所だと思うんですよ。映画を見に行くだけじゃなくて、地域の居場所としての機能というのも地方のミニシアターが生き残るひとつかと思います。
映画は人と社会とをつなぎ止める
KIQ: 「action4cinema」の話に戻りますが、映連(日本映画製作者連盟)や映画業界内部に働きかけられていますが、その目標としてはフランスのCNCや韓国のKOFICのような独立行政機関の設立にあるんですか。
青木: KOFICはCNCをモデルにして作られたもので、KOFICのように、財源として映画のチケット代から何%か引いてそれを基金にできたらいいねって構想があったんですけど、それがなかなか受け入れられなくて。本当は民間の映画会社とか映画人がまとまって、そこに行政補助を追加で受けられれば理想だと考えていたんですけど、まだ共助システムの構築には至ってないのが現状です。去年、内閣府に映画戦略企画委員会が組成されて、今年の2月13日を含め2回会議をやったんですが、そこがひとつの集約した機関になったらいいなと思ってはいます。CNCやKOFICのシステムをそのまま持ってくるのは難しいと思うので、いまの行政の構造の中で何が一番取りまとめできるのかというのを模索してる最中ですかね。
KIQ: 韓国にはジェンダー平等センターができ、現場にも積極的に働きかけてくれると聞きますが、日本映画界でのハラスメント問題に対しては、課題を含め、どのように考えていますか。
青木: みんなで韓国のそのモデルは研究しました。通報システムがあって、罰則自体はないんだけど、告発された監督には助成金が通らなくなったりするようです。でも警察ではないので個々の事案には触れられない。是枝監督から韓国で『ベイビー・ブローカー』を撮影したときに、非常にストレスがなかったと聞きました。製作費が日本よりもあるので、A班で撮影が終われば、次の現場への移動のときにB班が先回りして準備していたり、ちゃんとごはんを食べられたり、休める時間が確保されていた。撮影に入ってどんどんみんなボロボロになっていくような状況だと、苛立ってハラスメントが起こりやすくはなっていくと思うんですよね。なので、そもそも現場の環境をよくすることで、ハラスメントの抑止になるとは言わないけど、システム改善をしていけないか。そのような事案自体が起こりにくくするためにはどうしたらいいのかを考えています。
また新たな試みで言うと、映像業界専門のベビーシッターサービスを立ち上げたin-Ctyさんの存在を知って応援してます。(参考記事:https://natalie.mu/eiga/column/604997 )
KIQ: 今後もっと力を入れていきたいことはありますか。
青木: 海外と比べると、日本は映画教育の分野が弱い。例えばドイツの文科省の人とか論文を書けるぐらい映画に精通してたりするんですよね。子どもの頃に映画から何かを学んだり、楽しさを感じる体験をしていないと、その子が官僚になっても社長になってもうまく機能しない。子どもたちがミニシアターに行くようなプログラムが作れれば映画館を知ってもらうことになるかもしれないし、映画を通じた教育でもっと何かできないかなとは考えていますね。
KIQ: ありがとうございます。今日は、映画や文化を守るために言語化するこの大切さを改めて感じました。
青木: 今まで、映画、エンターテインメントの社会における位置付けというものを考えたことはなかったんですが、劇作家の平田オリザさんは、芸術が担う<社会包摂>の重要性を言葉でロジカルに説いていらして。
KIQ: ぜひ教えてください。
青木: 例えばヨーロッパには、失業した人が割引で博物館とか演劇とか映画を見れるサービスがあるらしいんですよ。日本の場合は、「失業してるのに映画とか見てる場合か」という目が向けられがちですが、ちゃんと働けと押し込むと引きこもりになり、孤立する。孤立すると様々な社会的なコストがかかるんですよね。そうではなく、失業していても社会に出てきた方が実は社会的なコストがかからないしその方の癒しにもなる。芸術は別に道楽ではなくて、人々を社会につなぎ止める役割を果たすんだと平田さんから学びました。
KIQ: まさに仰る通りですね。
青木: 日本は先進国の中で自殺率トップクラスで、心の問題も大事なことであるはずなのに、芸術やエンターテインメントの重要性はなかなか認められない。平田さんは100年後の支えになるものを我々は作っていると言うんですね。震災のときに、心を癒したのは100年前の童謡だったり、文化、芸術であったと。そう考えれば、映画の一端に関わるということは非常に素晴らしいことであると思いますし、映画を届けることで見知らぬ誰かを癒しているとしたらなかなか得難い仕事だと思います。
★【ENDROLL】「WEB映画宣伝黎明期の軌跡」宣伝プロデューサー青木基晃さん ~前編~
【Information】
映画を観る・映画をつくる体験を通じて、新しい学びの場をこどもたちに届けたい!
学校に行きづらい子どもたちに、映画館へおいでよ!とよびかける『うえだ子どもシネマクラブ』が、クラウドファンディングを実施中。
募集概要
◆主催:NPO法人アイダオ
◆期間:2025年1月20日(月)〜2月28日(金)
◆目標:300万円
◆寄付金使途:映画上映会の開催費用、子どもたちが安心して過ごせる居場所づくりの維持費用、高騰する電気代の補填など
詳細は https://syncable.biz/campaign/7500
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