プロが見たこの映画

宣伝のプロが語る「世界は近い」

2024-04-25更新

今ディズニープラスで記録破りの大ヒットとなっている真田広之主演の配信ドラマ「SHOGUN 将軍」。
実に面白いのですが、僕らが学校で習った【日本史】とはちょっと違った日本がそこにあって、少し戸惑いますね。これはいわゆる「へんてこニッポン」とも歴史ミステリーとも違う。ちょっと調べるとエンタテインメントの衣をまといつつ、意外に真実に近いと気づく。日本の歴史には欠落している視点があるんだと思いますね。

例えば、江戸時代初期の「島原の乱」。
これ、キリシタン弾圧に耐えかねた信者の民衆が、天草四郎という“神の化身”的な10代の少年をリーダーとして起こした一揆。という感じだと思いますが、実はちょっと違います。 

島原の資料館に、海沿いの城に立てこもったキリシタン勢が幕府にあてた手紙が残ってまして、そこには、
「重税を課すあの領主をなんとかしてくれ、我々は生きるため仕方なく武器をとったのだ」
とあります。発端は松倉という殿様が課した重税でした。さらに、
「松倉を処刑せよ。キリスト教の信仰を認めよ。さもないとポルトガル軍が来るぞ」
と、一揆というにはあまりにプロな要求、脅してます。反乱軍の中枢はかつてキリシタン大名に仕えていた武士たちで、3万人以上に膨れ上がった彼らの実体は在日カトリック連合軍だったわけです。

実際、ポルトガルでは以前から「信者の救援を名目に、日本を侵略してしまおう」という意見が度々上がっていたようです。でもそれは実現しなかった、なぜか?
世界はこの時、世界帝国と言われたスペインとポルトガルのカトリック勢と、新たに台頭してきたオランダとエリザベス女王のイギリスのプロテスタント勢による世界を股にかけた宗教戦争の緊張の中にあったのです。

実は「SHOGUN 将軍」は、ちょっと時間を遡りますが、そのあたりの世界情勢が日本にどのような影響を与えていたのか描いています。真田広之演じる家康(劇中では虎永)と運命の出会いを果たす英国人・按針(ウィリアム・アダムズ=劇中ではジョン・ブラックソーン)。彼はドーバー海峡でスペインの無敵艦隊を破った、海賊あがりのイギリス艦隊司令官ドレークに仕えた航海士だったのです。

このドラマ、キリスト教を広めつつ日本支配を画策するポルトガルの魔の手と、虎永(家康)が按針を利用して対抗していく姿が描かれ、「世界はこんなに近かったのか」と驚かされます。

実際、九州はやばかった。キリシタン大名が多数現れ、神社や寺が破壊され、長崎は一時ローマ教皇領になっていたわけですから(長崎に昔からの寺社がないのはこのせいです)、家康にとってキリスト教の布教をせず貿易のみをしてくれるイギリスとオランダとの出会いは、願ってもないチャンスだったわけです。

それから30年後の世界が、この島原の乱(1637年)です。
3万人の反乱軍に対して、幕府軍は関ケ原の戦いを上回る12万人もの討伐軍を投入。もはや島原戦争といっていいでしょう。家康抜き(1616年没)の唯一の総力戦がここで行われました。

城を包囲してしばらくした後、水平線に軍艦の影が見えた。
「ポルトガル軍が救援にきた!」
籠城している反乱軍が歓喜の声をあげたのもつかの間、その軍艦は大砲を城に向けて撃ってきた。
それはポルトガル軍艦ではなく、幕府に呼応して参戦したオランダ軍艦だったのです。
「救援は来ない」
心理的ダメージは非常に大きく、オランダの大砲がうなる中、反乱軍は崩れていきます。 

「世界」を使って幕府を脅してきた相手を、「世界」を使って砕く。幕府にも戦争慣れした知恵者がまだまだいたんですね。オランダは幕府に気に入られるため、喜んで軍艦を派遣したそうです。
戦国時代から江戸時代初期まで、日本は世界の大航海時代にあって重要なキャストであったことがわかります。島原の乱は、カトリックvsプロテスタントの世界的宗教戦争の一部でもあったわけです。

実は「世界は近い」のに気づいてない。
日本の歴史には「世界」が足りてないのです。カトリック教会に対する遠慮でしょうか?いや違いますね、日本史の先生は日本史しか勉強してないってことなんだと思います

そう、我々も言ってるだけでなく、足りない「世界」を補わなければなりません。

P.S.ちなみに、この反乱の元々の原因をつくった松倉の殿様は、その後、幕府によって斬首に処されました(名誉を重んじた切腹ではない)。お家は断絶、いつの時代も重税はいただけません。

宣伝プロデューサー 石山成人

 

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