プロが見たこの映画

宣伝担当が語る『映画 えんとつ町のプペル』がヒットすると思う理由②

2020-12-17更新

第二回:フライングから始まるポジティブ思考

通常行っている宣伝はターゲットをセグメントし、マス宣伝をメインの軸として実行している。さらにSNSの登場で個人の熱量も活用しながら宣伝するように変化してきたのだが、かなりパターン化してきたことは否めない。いわゆる型にハマった宣伝が主流となり、あとは作品に合わせて味付けしていくという事の繰り返しだったのではないか?とプペルの宣伝をやっていると気づくのだ。

状況が変われば対応する、それだけのこと

2020年を持って宣伝の概念が大きく変わった。ある日の会議で「前売ムビチケカードを何枚作りますか?」と質問をした。制作費含めた金額を3万枚の場合、5万枚の場合、10万枚の場合とその差額も含めて提案した。すると迷わず10万枚を選ぶ西野さん(西野亮廣:製作総指揮・脚本・原作)。その時(コロナ前)の戦略は、公開前に各劇場を回って、映画館で西野さん自身が宣伝をし、自ら手売りでチケットを販売するという計画があった。
「これなら売れそうだ」と思った矢先、コロナが発生するのである。全ての戦略が崩れ、10万枚のチケットの山を前にして西野さんが「映画のチケットってクラウドファンディングで売っていいんですか?」と一言。売るのは良いことだが、誰もやったことがない、何を基準にOKすれば良いのだろう?法律にひっかかるんじゃないか?と慌てるスタッフ。結局「持ち帰って確認します!」と言葉を濁し、解散したその後が大変である。
なぜなら西野さんは<決めたらすぐ動く>達人なのだから、OKでもNGでもどんどん準備が進んでいく。これって宣伝の仕事なのか?と思いながらも、あっちに電話して調整し、こっちに電話して調整し、お陰様でかなりクラウドファンディングにも詳しくなった。そうこうしているうちに、次第に全員の気持ちは一つになってくる「これはもう止められない、OK出すしかない」と。
そして「よくわからないので、進めてください」という答えが無事に(?)出た。この程度の結論だったら、あの場で出せたのでは?と思いながらも西野さんにOKのご連絡をすると、若干フライングぎみで(いつもです!)すでに募集が始まっているのだ。

緻密に設計されたドヤ顔マーケティングで1億円

クラウドファンディングを使った展開の内容は、至ってシンプル。プペルを観たいという子供達の団体を募集する、それに対してチケットを贈りたいと思う人をマッチングさせていくというのだ。西野さんはこの手法で絵本の販売も成功させている。自分用に買うなら1冊しか買わない。でもギフトにすると何冊も買うという考えなのだ。そして、この方法論を映画にも応用してきたのだ。
次から次へマッチングが決まり、あっという間に1億円を突破してしまうのだ。これだけ聞くと、欲しい人にチケットを届けるダケに見えるかもしれないが、目からウロコなのは、実はここではない。
一番驚くのは、めちゃくちゃ細かくユーザーの気持ちを考えて設計されているという事。チケットを受け取る人よりも、贈る人の気持ちをきちんと考えているのである。もし誰かが出身の小学校の生徒全員にチケットをプレゼントしたとする。そうすると学校から感謝される。そして、「俺、小学校に映画チケットに寄付したんだよ」という印を残してあげる仕組みまでセットされているのだ。ちゃんと友達にドヤ顔するきっかけを作ってあげている。クラファンのページを見ていただくとわかると思うが、「ThankYou・・・・さんより」と名前が入っている。「あー、この人は福岡の30人の子供たちに映画のチケットを提供する心が綺麗な人なんだな。」となるわけです(くれぐれも全員がドヤ顔目的ではありません)。
マッチングだけで終わらせず、西野さんのクラウドファンディングは<必ず達成>するように緻密に設計されているのだ。そして高い方を選ぶ理由もきちんとあるのだ。

チケットをバラ撒いた先にあるもの

そしてすかさず「一億円突破記念、応募者全員チケットプレゼント」というさらに無謀な企画が始まる。もう誰も慌てない。このチームの凄いところは順応性が高いところだ。全員が企画の連絡が来た段階で、「OKを取る前提で話を進めるようになっている」。実はこの変化って凄いこと。全員が前しか見ていない状況を、「前を向け」と言わずに作り上げているのだ!
そしてプレゼントの総額は1億4000万円になり、西野さんご自身でお支払いになりました。一見マイナスに見えるこのお支払いでさえプロモーションとして捉えており、見たい人にチケットを届ける。これは見るきっかけをしっかり作るという目的が達成されており、この人たちはすでに「巻き込まれた人たち」なのである。見たらきっと口コミするだろうし、見ようか迷ってた人も、絶対見にいくだろう。一人1500円で心を掴めるのだったら安いものかもしれない。

このチームは自然と全員同じ方向を向いている、だからこの映画は当たると思う。

映画 えんとつ町のプペル』宣伝担当

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© 西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

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