プロが見たこの映画
【最新配信エンタ】『シンクロニック』過去はまだ過ぎ去っていない。謎のドラッグがもたらす最悪の旅へようこそ。
あなたがB級ホラー・スリラー・SFに期待するものは何だろうか。B級映画好きの多くは、奇抜で面白いアイディア、工夫された見せ方、大作にはない突出した個性などを求めているのではないか。そうであれば、このコンビの名前を覚えておくと良いだろう。ジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッドだ。この2人は、時に自分たちで主演を務めながら、まさにそのようなB級映画ばかりを撮ってきた。
『キャビン・イン・ザ・ウッズ』では、友人の薬物依存を治すためともに森小屋にカンヅメになろうとした男のもとに、何者かから2人が殺される映像が送りつけられてくる。『モンスター 変身する美女』では、主人公が旅先で恋に落ちた美女が2000年以上生きている太古の怪物だった。『アルカディア』では、主人公2人 (ベンソンとムーアヘッド)がかつて属していたカルト集団の村に10年ぶりに戻ると、なぜか年を取っていない村人たちに再会する。最新作『Something in the Dirt(原題)』では、うだつが上がらない主人公2人(やはりベンソンとムーアヘッド)が超常現象に出くわし、それをドキュメンタリーとして記録し名声と富を得ようとするが、のめり込むあまり2人の関係が壊れていく。どれも非常に魅力的なあらすじではないだろうか?
彼らの前作『シンクロニック』もまた、その設定だけでB級映画好きを魅了する。何とタイトルのシンクロニックとは、劇中に登場する、飲むとタイムスリップしてしまうドラッグの名前なのだ。救急隊員のスティーブとデニスは、ドラッグ中毒者たちの不可解な死傷・失踪事件に遭遇する。行方不明者の中にはデニスの娘もおり、シンクロニックの力に気づいた死期の近いスティーブが彼女を探すため時間を飛び越えようとするのだ。普通の映画だとタイムスリップが単なるドラッグの幻覚に過ぎない可能性にも触れるだろうが、本作では本当にタイムスリップする。ただし夢の薬ではなく、制限時間は7分間だし、法則はあっても飛べる時代はバラバラだ。
誰でもいきなり過去に旅することになるのは危険だが、スティーブの場合はまさに最悪の“バッドトリップ”となる。スティーブを演じるのは、MCUでファルコン/サム・ウィルソンを演じたアンソニー・マッキー。彼はドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で、黒人がキャプテン・アメリカの座を引き継ぐ困難さを見せてくれたが、本作では黒人が過去にタイムスリップする危険性が描かれている。舞台となっているアメリカ南部ルイジアナ州ニューオーリンズはマッキーの生まれ故郷でもあり、黒人差別が苛烈だった地域でもある。劇中の過去の世界にはクー・クラックス・クラン(KKK)が登場するし、実際の現代のルイジアナでもKKKは活動中だ。タイムスリップというギミックは、良くも悪くも過去と未来が繋がっている事実を観客に突きつけてくる。
ベンソン&ムーアヘッドは、これまでの功績を買われマーベルの『ムーンナイト』の数エピソードを担当しており、今後配信予定の『ロキ』シーズン2にも参加予定だ。ちなみに幸運なことに、上記したコンビの映画作品は『Something in the Dirt』以外の全てが日本で視聴可能だ。『Something in the Dirt』の上陸も時間の問題かもしれないので、それに備え『シンクロニック』含めた全作品を一気見しておくのはいかがだろう。
日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー 屋我 平一朗
『シンクロニック』(2019)
Amazonプライムビデオで視聴する⇒こちら
【ストーリー】
ニューオーリンズの救急隊員で長年の親友であるスティーブとデニスは、連続して発生している奇妙で陰惨な事故の現場に到着する。現場で発見されたシンクロニックと呼ばれる非合法の謎のドラッグがもたらす幻覚作用が原因だと判断される。ある日、デニスの長女が突然姿を消してしまう。スティーブは、その失踪に例のドラッグが関係していると気付き、自ら効果を試すことに。その薬を服用したスティーブが体験したのは幻覚ではなく、7分間だけ別の時代へ移動するタイムトラベルだった…。
【キャスト】
アンソニー・マッキー、ジェイミー・ドーナン、ケイティ・アセルトン、アリー・ヨアニデス、ビル・オバースト・Jr. 他
【スタッフ】
監督:ジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッド
脚本:ジャスティン・ベンソン
(C)2019 RED FLOWER FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED.
- 【MOVIE MARBIE「最新配信エンタ」バックナンバー】
- ★『心霊写真』この恨み、晴らさでおくべきか…『女神の継承』監督渾身のデビュー作!
★『ラスト・オブ・アス』お互いにとって残された「最後の一人」。傑作が静かに動き出す。
★『ザ・メニュー』裏があってもおもてなし。ここから帰りたくなくなるような、至上のひと時をあなたに。
【ほかのプロの記事も読む】
★ファッションのプロが語る「“善意を浴び続ける”ということ」
★宣伝のプロが語る「信長は独裁者か?」
★オンライン番組ディレクターが語る「マキマがお前を嘲笑う…!? 映画オマージュで観る映画」
COMMENT
コメントをするにはログインが必要です。不明なエラーが発生しました