調査レポート
是枝裕和×クロエ・ジャオ 対談レポート――『ハムネット』と『ワンダフルライフ』が交差する創作の視点【第38回東京国際映画祭】NEW
第38回東京国際映画祭と国際交流基金の共催企画「交流ラウンジ」が11月2日、東京ミッドタウン日比谷・LEXUS MEETSで開催された。是枝裕和とクロエ・ジャオが登壇し、互いの作品体験と制作プロセスについて率直に語り合った。
是枝は、映画祭のクロージング作品『ハムネット』を事前に鑑賞し、物語を紡ぐ理由や悲しみを描く意義に改めて向き合う時間になったと話した。ジャオは『ワンダフルライフ』を見直し、長く涙が止まらなかったと明かし、二人は作品が観客に自分の人生を見つめ直すきっかけをもたらすと語った。

創作の進め方について、是枝はセットに立ちながら役者の動きや空気を手がかりに、その場で台本を更新する手法を紹介した。ジャオは『ハムネット』のクライマックスが脚本段階には存在せず、現場での出来事や俳優の反応から結末を見出した経緯を語り、計画と即興のあいだで作品を組み立てていく姿勢を共有した。
編集への向き合い方では違いが出た。是枝は撮影素材をその日のうちに粗くつなぎ、翌日の設計を調整する運用を明かした。ジャオは撮影と編集を分けて進めるほうが自分のリズムに合うと説明し、現場のスピード感と後工程の冷静さをどう配分するかという実務的な視点を示した。

俳優との関係について、是枝は細部を決め込み過ぎずに提案し、俳優が自発的に動ける余白を残すと述べた。現在撮影中の『箱の中の羊』では千鳥・大悟の自由な反応がシーンを豊かにすると紹介し、役者ごとに接し方を変える考えを示した。ジャオは主演ジェシー・バックリーと共有した一曲が終盤の形を決定づけたと振り返り、他者の感性を受け取る姿勢が結果を左右すると語った。
テーマへの関心も語られた。ジャオは近作に通う関心として、別々に見えるものがひとつにつながる瞬間に惹かれると述べ、次作でもその線を追う考えを示した。是枝は撮ることそのものへの喜びを口にし、現場の子どもたちに「映画づくりは楽しい仕事」という記憶を残したいと話した。

『ハムネット』は16世紀のイングランドを舞台に、アグネスとウィリアム・シェイクスピア、そして家族の物語を描く。日本公開は2026年春を予定している。是枝の新作『箱の中の羊』も2026年の公開に向けて撮影が進んでいる。
対談を通じて見えてきたのは、結論を急がず、現場での発見を作品に取り込む姿勢。方法は違っても、迷いを作業に生かし、チームの手応えを信じるという点で二人の視線は重なっていた。

<第38回東京国際映画祭 開催概要>
開催期間:2025年10月27日(月)~11月5日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区
公式サイト:www.tiff-jp.net


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